02. ヒカリ に 溺れる

私はまだ片手で足りる年齢だ。本来なら母親が恋しい、と思うのだろうが如何せん生前の記憶があるのでそうでもない。そうでもないのだが、兄は私が寂しくないようにと私と兄は同じベッドで寝起きしている。慣れつつある自分がいることに少し驚く。…私にも人間らしい感情がまだあったのか、と。
カーテンの隙間を縫うように差し込む朝陽は朝を告げる。
…、あさだよー…」
寝ぼけている声と同時にゆさゆさと体を揺らされて、思わず体を背ける。昔から朝は苦手だったが、それは治ってないらしい。
「やだ…」
絞り出すような声を出すと何故か衝撃。「ぐふ…ッ」と子どもらしくない声が出る。何事かと視界を探れば兄が乗っかってる。
「もー…、おもいー」
言葉はいくらでも思い浮かぶのに何故か口に出すととても拙くなる。呂律が回っていない、というべきか。
がまだ寝るならおれも寝るー」
…屁理屈だ。コイツ碌な大人になんないだろうな、と頭の隅で思った。そんなことを妹が考えてるとも知らずに兄はしてやったりと笑っている。太陽みたいな金色の髪が揺れている。
あぁ、どうしてだろ。こんな瞬間がどうしようもなく愛しいと感じてしまうのは。


「にいさま、これはなんて読むの?」
言葉はどうにかなったとは言え、文字まではそうはいかなかった。ということで目下勉強中である。英語と似ている文法なのだが、私は英語事態もそんなに得意とはいえない成績だったので思いのほか苦労をしている。そして先生は兄だったりする。
「それは『ゆき』だよ」
私は首を傾げながら「それは空から降るゆき?」と尋ねれば「そうだよ、ケテルブルクにいっつも降ってる雪!」と窓の外の雪だるまを指差す。今もケテルブルクの空には厚い雲が覆っている降り止まぬ雪を降らせている。はらはら、と降る雪は幻想的でもあるのだが常に雪に包まれて生活するのはあまり雪とは縁のなかった私には新鮮でもあり少し窮屈でもある。
「外、行く?」
物欲しそうにでもしていたのだろうか、窓の外を見ていた私に兄は問いかける。
「…行ってもいいの?」
詳しい事情は知らないが、私と兄はこれでも王族の血筋で尚且つ命を狙われている。そして現在グランコクマを離れてケテルブルクに軟禁されている真っ最中である。護衛をつけたとしてもそう簡単に外に出れるとは思わない。
「ばれなければいいんだよ」
悪戯いっぱいの笑顔で返されて、私もついつい面白くなって「うん!」と頷いてしまった。

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