01. 運命 に 愛 されたなら

全てが白紙に戻る。
その恐怖を知る人は少ないに違いない。要らぬ知識だけは頭に残っているのに、肝心なことは思い出せない。そんな歯痒い重いに眉を顰めながら、未だ慣れぬ雪道を背筋を伸ばしゆっくり噛み締めるように歩いてゆく。
此処はもう今まで居た場所ではないのだ。
ほんの少しの緑と美しいとは言い難い海があった、あの柔らかくも優しい陽射しの注ぐ街ではないのだ。
気が付けばフェードアウト。気が付けば新世界。こんにちは、新しい私。輪廻転生なんて信じてなかったのだが、自分が体験してしまうと信じるしかない。赤ん坊の頃から生前の記憶があるためいまいち子どもになりきれない自分がいた。
…信じたくなかったのかもしれない。
「私」が死んでしまったなんて、そんなこと。

「今」の「私」の首には淡い青色のマフラーが何重にも巻かれ、手にはお揃いの手袋。分厚いコートはこの吹雪の寒さをいとも簡単に防ぐ。私の右手を繋いで少し前を歩く少年は眩しい金色の髪を揺らしながら時々歩調を確かめるように振り返り、そして微笑む。
すん、と鼻を啜れば少年は目敏く気付いて足を止める。
「寒いか?」
少年独特の少し高い声が上から降ってくる。ふるふる、と首を横に振れば少年は私の頭を優しく撫でた。
「いい子だ」
ふわりと微笑み、そして再び歩み始める。

白い街だった。
何処までも雪に覆われているこの街に兄と数人の護衛とメイドと共に海を渡り着いたのは少し前。
まるで帝都から逃げるように─…。
いつまで経ってもこの雪道は歩き慣れない。歩幅が小さいうえに歩き慣れないこの道は足を取られて何度も前に倒れそうになる。その度に手を引く同じ髪と瞳の色を持つ兄は私を支えてくれる。二人だけで屋敷の外を歩くのは初めてだ。噛み締めるようにゆっくりゆっくり歩いて行く。ふと気付けば大きな広場のようなところに出た。

頭幾分か背の高い兄が膝を折って視線を合わせる。
「これからは俺がを護るから、だから、」
少し俯いた兄は一呼吸置いて続けた。

「ずっと一緒にいような」

その声が少し掠れていて、なんだか胸を締め付けられた。私は答える代わりにぎゅうっと抱きついた。
雪はまだ降り続けている。

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