|
「…おいしくない」 思わず漏れた言葉は少し掠れていて、寄せられた眉は不快さを表すようにに深く刻まれている。ワイングラスに寄せられた唇を早急に離すと伝い濡れた唇を手で拭う。乱雑にテーブルにグラスを戻せば赤みを帯びた液体が波打つ。その様子を見ていた彼がわざと聞こえるように溜息を付くものだから余計に苛立つ。 「なに」 疑問詞のはずなのにそう聞こえないのは彼女が苛立ち、語尾が強いから。 「ここがそういう場所だって知って来たんだろ?」 子どもに言い聞かせるような態度がさらに彼女を苛立たせると、彼は知らないのだろうか。いや知っている。なぜなら彼は彼女とは兄妹のように育った従兄妹だから。それなのに、わざと彼女を怒らすような物言いをするのは彼にだって考えがあるから。 「、ここにいることをキミは決めたんだ。なら、ルールには従ってもらう。我儘は通用しないんだよ」 Forbidden Fruit 「一条に怒られたからってわざわざ僕の部屋に来るな」 「怒られてないもん!」 「ていうか、僕眠いんだけど」 「私は眠くない」 話が噛合っているのか、いないのか。彼女たちの会話を聞いて巻き込まれたくないと、藍堂と同室の架院はそそくさと部屋を後にする。そしてドアを閉めると深い溜息を付いて、頭を乱暴に掻く。彼女の様子が心配なのか部屋の前で屯っていた一条と目が合い苦笑い。そして同時に再び付く溜息。 「ちょっと英にお願いがあって」 彼女の口から『お願い』なんて言葉が出てくるとは思わなかった。目を白黒させていると、彼女の力強い瞳が目に入る。 「お願い?」 思わず復唱する。確認する意味を込めて 「そうお願い」 強調して繰り返すと今度は疑いの眼差しを向けられる。日頃の彼女の行いの所為で。 「さっき、アレ飲んだの タブレット」 「あぁ、不味いよね」 「そう。すごく不味いの だからお願い」 「あなたの血を飲ませて?」 頬に添えられた手は氷のように冷たくて、首に寄せられた唇は血のように赤く、尖った牙が食い込んで、ゆく。 それは甘美な禁断の果実 次 |