鼻に付くオキシドールの匂い、光の差し込まない地下室、棚にはホルマリン漬けの標本

 書類が散乱している部屋のソファに横たわり、埋もれるように眠る女 

 手元には色鮮やかな 毒々しい錠剤の瓶が倒れこんでいる

 ベルが鳴った

 着信を知らせるために点滅し、煩い音が静かな部屋を支配する

 手探りでそれを探し出し、耳に当てた

 『いつもの場所に 二時間後』

 少し低い男の声が電話口から聞こえて、そして ただそれだけを言って電話は切れた

 眠りを妨げられた不快感を表すように、携帯を床に荒々しく置いた

 ソファから立ち上がり、背伸びをして 皺の寄っている白衣を伸ばす

 長い髪を一つに纏め、テーブルの上に無造作においてある革の鞄を掴んで部屋を出た

 街灯の明かりで影は長く伸びている

 明らかに自分の足音以外の音 しかも複数の

 だんだん近づいてくる、囲まれた

 うんざりして、振り返りため息を吐いた

 「雑魚ばっか」

 ピクンと反応を示し、血相を変えて奇声をあげながら突っ込んでくる

 「うおぉぉぉぉっ!」

 暖簾に腕押し、軽く避けて動脈を掻っ切る

 血飛沫の向こうで恐怖に顔を引き攣らせる男たちに、綺麗な微笑を



 「いらっしゃい」

 金色の髪をした好青年は人のいい笑顔を浮かべてドアを開けた

 「…徹夜明けなのよ」

 「あはは、お疲れ」

 あれ、と好青年もといシャルナークは首を傾げ足を止めた

 「もしかして、殺っちゃった?」

 「あらら、移り香かしら?」

 「今日はいつにも増して血の臭いが濃いなぁって」

 「今日は手術(オペレーション)してないんだけどなぁ」

 独り言のように呟いた

 「あ、団長」

 シャルの視線を辿ると、額に趣味の悪い十字架のタトゥの男

 「来てたのか」

 「…あんたが呼んだんでしょうが」

 見当違いな問答をして、私はクロロを見据えて

 「わざわざ呼ぶくらいの用事なの?」

 「お前が欲しがっていたいい標本(サンプル)が見つかってな」

 クロロは唇の端を持ち上げてニヤリと笑う

 この男がこの笑い方をするときは何か裏がある 分かりにくいような分かりやすいこの男

 「…どんなオマケ付き?」

 「クルタ族だ」

 「なに、それ…」

 どこから出したのかクリップで留めてある資料を読み始めた

 「山奥に住んでいる部族なんだが、キレると瞳が緋色に染まる」

 「へー」

 「そしてそのまま殺すと瞳は緋色ままだ」

 「一体欲しいわ」

 「だろう?俺たちは一週間後村を襲う お前も行くか?」

 「めんどい」

 即答 クロロは笑い、そして再びニヤリと笑った

 「じゃあ、報酬を期待してるよ」

 暗闇の奥底で生きる者同士を惹きつける何かがあった

 気が付けば自分も蜘蛛の一部になっていた








気が向けば連載になるかも
手術(オペレーション)は主人公の念能力です