この窓から見える景色は色を変える
淡い色から鮮やかな色へ、そして色が褪せ白へ戻る。
わたしはその景色を眺めることが何よりも好きで
飽きることを知らないように毎日見ていた。
わたしはこの限られた窓からの景色しか見られない
窓には鉄格子、ドアには何重もの鍵
手錠が付けられていないのが唯一の救い。
何十億もの大金でこの屋敷の男に買われたのはいつだったか。
わたしがまだ幼い時、両親の死んで間もないわたしは知らない男に手を引かれ
大勢の人がいるステージへと連れて行かれた。
わたしを見るなり目の色を変えた彼らが恐ろしかった。
そして、嫌な目つきの、わたしにとっては祖父と同じくらいの年齢の男
その男がわたしの主人になった
それからこの屋敷の一番上の奥の部屋で暮らしている。
暮らしている、というのは語弊があるかもしれない。
飼われているだけなのかもしれない。
そして、一週間後わたしはあの男と結婚する。
そのためにあの男は幼いわたしを買ったのだ。
月明かりが何もないこの部屋を照らす
白い服には赤い色がよく似合う。
手に取ったのはさっきまで林檎を向いていたペティナイフ。
手首にそっと滑らせば赤い血が滴り落ちる。
自分もやっぱり人間なんだ、と思ってそんな自分を嘲笑して。
このまま血が止まらなければ死ねるのかな、とか
天国って本当にあるんだろうか、とか
記憶は既に飛びそうだった。
最後に見たのは、流れていく景色と温かい誰かの温もり。
その少女を見つけたのは偶然だった。
情報収集のために訪れた悪趣味な屋敷。
立ち入り禁止だと、言われれば俄然興味を覚え、
ドアを開けたその刹那、白いドレスを纏った女が崩れるように倒れていた
顔面蒼白で、唇の赤が目立っていた。
気が付けば、その女を抱えて夜の街を駆け抜けていった。
らしくない、ことをした。
ベッドに寝かした少女と呼べる年齢の女を見て、ため息をつく。
何を考え、俺はこの少女を連れて帰ったのだろう
顔には少しずつだが、赤みが差し、手首には白い包帯を巻いた。
白いドレスには所々血が付いており、痛々しい。
目が覚めるとそこは、いつもの牢獄のような部屋ではなかった。
ここが天国なのかな、と考えてると 男の声が掛かった
目を覚ましたらしい少女は何を思ったか、微笑んでいた
「目が、覚めたのか」
いきなり声を掛けたことに驚いたのか、人がいるのに驚いたのか俺にはわからない
そこにはわたしより年上の男の人がいた
意味も分からずにただ、彼を見つめることしかできない。
少女は困惑しているようだった。
無理もない、目が覚めたら違う場所にいるのだから
自分はこんな無垢な少女をどうしたかったのだろうか。
彼が何も言わないから、わたしは益々困ってしまった。
「…ここはどこですか?あなたは?」
精一杯紡いだ言葉に彼は驚いたようだった
「ここは俺の家だ、君は、」
何を言おうとしたのか頭の中は真っ白だ
今日はつくづく俺らしくもない
彼の家、なぜだろうか、
「…助けてくれたのですか?」
あなたはわたしを助けてくれたの?
あの地獄から。
助ける?そうか、鉄格子の窓、鍵の掛かったドア、立ち入るなといううことは
この少女は幽閉されていたのだろう
「ああ、もう大丈夫だ」
彼の言葉を聞いて、肩の力が急に降りた。
助かったのだ、あの男から逃げれたのだ
「ありがとうございます」
そしてわたしは彼に話した、自分のこと、過去のこと
手首に巻かれた包帯を撫でながら話す少女の姿には少し痛かった
俺が彼女を攫った理由、それはきっと保護欲。
少女を護りたかったんだ。
これからは、太陽の下を歩いて、好きなときに遊んで、外に出てもいいんだ
クロロさんと名乗った男の人はそう言って頭を撫でてくれた
嬉しかった
「名前はあるのか?」
そう聞いた瞬間に俯いた
少女は無い、と言った
俺が付けてやる、と言ったら嬉しそうに笑うから俺も笑った
「?」
「お前の名前だ」
クロロさんが付けてくれたわたしの名前、
綺麗な、名前
そうして、俺たちは出逢ったんだ。
惹かれ合うように、磁石が引き合うように
それこそが運命だと思った。
君はまるで、赤いアラベスク。