「ほぉ、板についてきたじゃねェか」

トシさんに褒められるなんて大雨になるんじゃないだろうか、そう思って空を眺めても雲ひとつない快晴が広がっていた。

お兄ちゃんが仕事で留守だと確認して庭先で素振りをする。罪悪感がないわけではないけれど、いつもの日課になっていた。集中していて誰かが近づいているなんて気付きもしなくて、声を掛けられてようやく気付いた。

「ちょうど俺も非番なんだ。手合わせでもするか」
その一言で全身から血の気が引いたのは仕方がないと言って欲しい。
道場に向かうとトシさんが防具を投げてきた。私が慌てて受け取ると「お前に怪我はさせられねェ」と言ってそれを付けるように言われた。男と女ではそもそも身体のつくりが違う。そうと分かっていても悔しいさがこみ上げる。なかなか着けようとしない私にトシさんは再度強く言う。私は仕方なしにそれをつけた。
「遠慮なんかするなよ、全力で来い」
木刀を構えて、私は勢いよくトシさんに斬りかかった

斬っても斬ってもトシさんによって防がれ、交わされる。
「どうした?そんな程度か?」
トシさんは不適に笑う。安い挑発だとは分かっている。けど、そんな挑発に乗ってしまうほど血が騒ぐ。



息も絶え絶え、防具を外して柱に寄りかかり酸素を吸う。私の横にトシさんも腰掛けて煙草を吸っている。この余裕が悔しい。うっすら涙がたまる瞳を見られたくなくて顔を逸らして俯く。
「強くなったな」
「全然なってない…、トシさんに一本も入れれなかった…」
悔しくて悔しくて悔しくて、瞳にたまっていた涙がポロポロこぼれた。お世辞なんていらない。
「俺とこんだけ討討ち合い出来るやつもそういねェがな」
「褒めてんだよ!ちったーうれしそうな顔しろ!」
ぐしゃぐしゃと頭を撫でられた。おかげで髪がぐちゃぐちゃだ。
「俺が褒めるなんてそうそうねェんだぞ」
「…うん」
「そろそろ近藤さんに言ったみたらどうだ」
痛いところを突かれた。ドクンと心臓が妙な脈を打ったのが分かった。
「おら、言って来い」
トシさんが見た方に視線をやると、そこにはお兄ちゃんが立っていた。



変わらない日々がずっと続けばいい、


それが儚い願いだと知っていても




(061010)