なんて詩人みたいなことを思う。 川原を歩いていると、夏みたいな入道雲はもう空にはなくてまだらに白い雲が浮いていた。ただずっと歩いていると空が赤く色づいて、遠くの空に陽が沈んでいく。あぁ、もうこんな時間なのか。そう思って引き返そうとした。くるりと身体を翻して、足が止まった。目の前に広がるのはまだ色づいていない大きな丸い月。

そらがおちてくる

そう感じるのも無理は無いと思う。あの大きな木の枝の間から見える、あの月はとても大きくて少し歩くと全てが見えた。クレーターまで見えちゃうんじゃないんだろうかと思うほど、近い。

「そんな上ばっかり見てっとこけっぞー」

思いがけない声の出現にびっくりしていると、ニィっと笑って総悟は横に並んだ
「…びっくりした 何でいるの?ていうか、仕事は?」
「んなもん俺にはあってないようなものですぜ」
頭の上で手を組んで、道に転がっている石を蹴りながら総悟は話す
「ま、本当のこと言うと見回りしてたら今にも泣きそうな女がいてほっとけなかったんでさァ」
「泣きそうな顔してた?」
「おうよ、今にも誰かが死にそうなツラしてやす」
私はその言葉にニヘラと力なく笑った。でも総悟は笑わなくて、端麗な顔に影があった
「そんなに好きならなんで言わなかったんですかィ」
トーンの下がった声に、内心ドキリとしながらも平然を装う。
「泣きそうなあんたを見てられねェんでさァ…!」
一瞬、何が起こったのか分からなかった。総悟のさらさらな髪が視界に入ったかと思うと、力いぱい抱きしめられていた。
「…俺じゃだめなんですかィ」
「俺じゃ、あいつの代わりにはならないんですかィ」
私の存在を確かめるように、総悟の存在を知らしめるように彼はぎゅうと抱きしめる。
私は手を回すこともできず、ただ総悟のさらさらな髪の向こうに見える大きな月を眺めていた。
今にも空は落ちてきそうなほどに、月が地上に近づいている。

あぁ、空が落ちてくる

だけど、弱虫な私は総悟の腕を振り払うこともできず彼のぬくもりの中で静かに泣いた



(06105)