「よし!なんていい天気なんだ!なぁ、!」
隊服じゃないお兄ちゃんは腰に手を当てて豪快に笑っている。私はせっせと準備をしている。あと何が必要だっけ?と記憶を巡らせながら荷物を詰めて持ち上げる。あまりの重さに思わずよろめくと、お兄ちゃんが持ってくれた。




さくら さくら さくら




「あれ?お兄ちゃんは?」
キョロキョロと見渡すとお兄ちゃんの姿がない。代わりにさっきまでお兄ちゃんが持っていた荷物を総ちゃんが持っている。
「先に行ってくるって今出て行きましたぜ」
「大方、あの女のとこだろ」
トシさんがうんざりしたようにため息をついた
「あの女…?」
私は心当たりがなくて、首を傾げる。少しだけこみ上げてくる嫉妬心。
「行くぞ、酒飲む暇がなくなるじゃねェか」
黒いもやもやした気持ちを遮るような一言でハッと我に帰る。そして、半ば引っ張られるようにトシさんと総ちゃんの間に挟まれて屯所を出発した。

ようやく着いたのは有名な桜の名所。あちこちで綺麗な桜が咲いている。あたりはピンク一色だ。
「なんでィ、の手作りじゃないんですかィ」
総ちゃんは文句をつけながらも荷物を持ってくれたけど、お弁当が私が作ったものじゃないと分かるとそれを退さんに押し付けた。そして退さんは「場所をとってこい」というトシさんの理不尽な命令で泣きながら走って行った。片手にお弁当そしてもう片方にミントンのラケットを持ちながら。

「女中さんが作ってくれるって言うから、あ、でも手伝ったよ!玉子焼きとか」
「じゃそれは俺のってことで、土方食うなよコノヤロー」
「テメ、斬られてェのか!」
抜刀するトシさんを慌ててとめる。
「一般の人も居るんだから!ただでさえ真撰組って評判悪いのに…」
「それは全部総悟の責任だろが!」
「女に凄むなんざ、土方死ねコノヤロー」
トシさんは目を細めてうすく笑った。そして「着いて来い」と一言行って、ずんずん進む。分けが分からない私と総ちゃんは顔を見合わせて、首を傾げつつトシさんの後について行った。


「そこをどけ、そこには毎年真選組が花見をする際に使う特等席だ」
明らかに一般市民に絡んでいるトシさん。相手はトシさんと同じくらいの白い髪をした男の人と私と同じくらいの男の子そしてちょっと年下の女の子。
「どーゆー言いがかりだ?こんなもんどこでも同じだろーが。チンピラ警察24時かてめーら!」
そして相手も怯まずにトシさんに絡む。軽い眩暈を覚えながら、総ちゃんの裾を掴む。
「同じじゃねぇ。そこから見える桜は特別なんだよ、なァみんな?」
「えっと、そうなの…?」
見上げた総ちゃんはニヤっと笑った。
「アスファルトの上だろーとどこだろーと構いませんぜ、酒のためならアスファルトに咲く花のよーになりますぜ」
トシさんの言葉とは正反対のことを言う。総ちゃん然り他の隊士たちも。
「うるせェェェェェ!」
と当たり前にトシさんがキレた。
「あれ、大串くんとこ女の子いたの?そしてすごい俺好み」
バチっと目が合うとウインクをされた。私がきょとんとしているとトシさんと総ちゃんが私を後ろに隠した。
「テメェ、コイツに手ェ出したらいますぐ殺してやるからな」
「そうですぜェ、旦那ァ コイツは俺の嫁なんでね」
火花が見えそうなくらいにバッチバチ睨みあう。止められるのはお兄ちゃんだけだと思い、先に出かけた兄を目で探す。
すると、見慣れた姿が大の字で横たわっている。



「あれ? お兄ちゃん…」
沈黙がさらに沈黙を呼んで、誰もが口を閉ざした。
「ウソォォォォ!?兄妹!?」
という白い髪の男の人の声とトシさんの舌打ちだけが無情に響いた。




(060911)