事の発端は簡単なことで、役に立ちたいと思ったのだ。何も出来ない自分が嫌いで、せめて護られる立場ではなく同等の立場にいたい。そのためには、一度捨てた剣をもう一度握らないといけない。ここには剣豪はいくらでもいる。だけど、知られたくなかった。暗中飛躍というべきなのかもしれない。 「本当にいいんですか!?」 「えぇ、今の世の中じゃ使う人なんていないもの」 寂しそうに笑う顔がなんだか胸を締め付けた。 ふらりと見つけた小さな古びた道場、そこを朝だけ使わせてもらうことになった。もちろん剣の稽古だ。 誰にもばれないように 差し足 抜き足 忍び足。 あと少しで屯所の門を潜るときに、厄介な総ちゃんに見つかってしまったのだ。 海に捨てたあの日々 「総ちゃん…、肩が痛い…」 昨日言った通り、総ちゃんは屯所の前で既に私を待って、二人で肩を並べて朝の江戸を歩いた。朝独特の匂いと、空気の冷たさが心地よかった。 「いきなり体を動かすからだろィ 自業自得でさァ」 総ちゃんに稽古をつけてもらって、生温い稽古なんて無意味だからバシバシ鍛えて、と言ったら本当に手加減なしだった。お陰で剣を握る腕の筋肉とか、振り上げるときに肩が痛い。着物をずらして見たら案の定痣になっていた。 「…すみません」 屯所が見えるまでの距離になると、総ちゃんは人影に気づき、目を細めてニヤリと笑った。何かを含むその笑みが察していることに、大方予想がついて思わず足を止める。 「さァて、どうしやす?」 「どうって…、散歩だよ さ・ん・ぽ!」 この「どう」がお兄ちゃんへの言い訳だと思って声が上ずる。 「近藤さんもいつまで散歩で通じやすかねェー」 きっと気づかないよ、と祈る。屯所の人影がどんどん大きくなるにつれて、お兄ちゃんがこっちに猛ダッシュ。 「ーッ!!!!」 総ちゃんと二人で顔を見合わせて、笑った。 そして始まる新しい日々 (060827) |