「で、どーこにいくんですかィ?」
聞き覚えのある声に肩がすくみ、ギギギと油の足りないブリキが動くように首を動かした。真撰組屯所と書かれた柱に寄りかかり腕を組んでいるのは総ちゃんだ。爽やかすぎる笑顔の後ろに黒いオーラが見え隠れして、思わず一歩引いた。
「さ、散歩…?」
「へー、こんな時間に?わざわざ人目を気にしながら?誰かと逢引でもするのかと思いやしたぜ」
言葉のところどころに棘を感じて、思わず言葉に詰まる。
「…早起きは三文の徳なんて言うじゃない?」
「三文の徳、ねぇ…じゃあ俺はがこんな時間に屯所を抜け出したのを見つけたのが徳でさァ」
黒々しい笑顔で近づいてくる。背筋に冷や汗が流れる。あぁ、私もついに土方さんの二の舞に…、
「総ちゃん…、み、見逃してくれたり、しない?」
声が裏返りながら、恐る恐る聞く。
「さァ?行き先と誰に会うか教えてくれたらうっかり口が滑ることもないと思いやすがねェ」
保護者のような言いように噴出しそうになるのを堪えながら、軽くため息をついた。結局、この幼馴染に敵うわけがないのだ。


あなたに捧げる世界の破片


「だから、朝の散歩に総ちゃんと行ってたのー」
何回目かの回答に呆れながら答えた。
「お、お兄ちゃんは…ッ!がいないからどれだけ心配して…ッ!」
ズビズビと鼻水を啜りながら、私の横に張り付いて離れない兄を見て軽く眩暈を、ニヤニヤとこっちを見ている総ちゃんを恨めしく睨んだ。
「いつも起しても起きない総悟と…!朝から何をしてたんだ!何をぉぉおお…ッ!」
段々エスカレートしていく。ついでに話はずれていく。
「お兄ちゃんはをそんな娘に育てた覚えはないぞ…ッ!」
「育てられてないもん。」
「反抗期!?反抗期なのか…!?」
大げさに頭を抱えて、泣き崩れる。これで局長なんか勤めてるから不思議だ。
「トシさん、お兄ちゃんがサボってるよー」
廊下の先にいたトシさんに聞こえるように叫ぶ。するとドドドドドッと走ってきて「あんた局長だよな」と胸倉を掴んで引っ張って行かれた。廊下にはお兄ちゃんの「〜ッ!」という叫びが響いた。私は胸を撫で下ろして、まだ後ろにいる総ちゃんに視線を向ける。
「手助けしてくれてもいいのに」
「俺に頼まなかった罰でさァ」
「だって、お兄ちゃんに知られたくなかったし…、」
「ま、明日から俺も一緒に着いてって指導してあげまさァ」
覚悟しなせェ、と言って部屋を出て行った。残された私は明日もちゃんと生きていけるか不安になった。

(060824)