お兄ちゃんの隣に座って書き終わった書類に判を押していく。淡々と作業を進める。遠くからはトシさんの叫び声やこの場所にふさわしくない爆音も聞こええる。きっと総ちゃんとまたやってるんだろう。真撰組の屯所で私が出来ることは限られている。私は真撰組の隊士じゃない。お兄ちゃんの影響で小さい頃に剣術を習ったこともある。だけど、私には剣は向いていなかった。そこら辺の雑魚に負ける気はしないけど、やっぱりお兄ちゃんには敵わない。比べられるのがいやで匙を投げた、と言われればその通りだ。ドドドドドッと、廊下を走る音がしてお兄ちゃんは「まァた、仕事しねェで…」と呆れていた。その足音が部屋の前で止まって、襖が開いた。入ってきたのは副長でもあるトシさんだった。嫌に真剣な顔でお兄ちゃんを見て、そして私を見た。
「悪りィ、
それは席を外せということだと、昔知った。書類が飛んでいかないように、判子を上に乗せて部屋を出た。部屋を出る前にちょっと見えた二人の顔は、仕事をしているときの顔で私が口を出せる状態じゃなかった。


戦慄が全身を走り抜ける


廊下を歩いてると、総ちゃんが居た。あのアイマスクを被って木陰で寝ている。行く当てもないから、私は総ちゃんの隣に腰を下ろした。葉っぱの隙間から零れる太陽の光を浴びて、総ちゃんの髪がキラキラ輝いていてた。私と違って綺麗な髪を何回うらやましいと思ったことか。
「なァにしてるんですかィ?」
総ちゃんの髪に触ろうとしたら、パッと手を握られた。総ちゃんは欠伸をしながらアイマスクを外す。
「起きてたの?」
「俺がいつ寝てるなんて言いやしたかィ?」
ニヤリと笑ったまま、手を離そうとしない。
「総ちゃん…?」
思わず彼の名前を呼ぶ。その刹那 トシさんの声で我に返った。「全員集合!!!」と叫んでいる。総ちゃんはスクッと立って、私を起こしてくれた。
「さァて、行きやすかァ」
全員集まっている間、どうにも自分は行きづらくて廊下に居た。聞こえてくるざわめきのあと、バズーカで静かになり。そして、本題に移った。ニュースで聞いたことがある話だった。この前攘夷志士の桂小太郎が宇宙海賊春雨の一派と思われる船を沈めた。その事件の裏に幕府の要人が絡んでいるというものだった。お兄ちゃんたちの仕事はその幕府の要人を護ること。
流石に着物のままじゃ動きにくいし、何より狙われやすい。少し前にクリーニングに出した隊服に着替えた。腰に剣を、隊服の内側には銃を。髪を高いところで一つに結び、部屋を出るとお兄ちゃんが居た。少しだけ、ほんの少しだけ悲しそうに笑って。
「何が起こるか分からん、トシと総悟の側を離れるなよ」
「お兄ちゃんは?」
「俺はあのガマガエルの側に居らんといかんからな」
そう言ってわたしの大好きな手が頭を撫でた。
お兄ちゃんが言ったとおり、総ちゃんを探した。また寝ている。横にしゃがんでいると、トシさんが来た。
「こんの野郎は…」
呆れたような声を出して剣で小突いている。
「寝てる時まで人をおちょくった顔をしやがって・・・オイ起きろコラ、警備中に惰眠をむさぼるたァどーゆー了見だ」
「何だよ母ちゃん今日は日曜だぜィ、ったくおっちょこちょいなんだから〜」
「今日は火曜だ!!てめーこうしてる間にテロリストが乗り込んできたらどーすんだ。仕事なめんなよコラ」
「俺がいつ仕事なめたってんです?俺がなめてんは土方さんだけでさァ」
「よーし、剣を抜けェェェェ!!」
と漫才の如くテンポよく進む会話を聞きながら私は無意識に笑った。お兄ちゃんが二人を叱っていると今度は幕府の要人がお兄ちゃんを殴った。それが許せなくて、思わず睨む。それを総ちゃんにやんわりと阻止された。ガマガエルが去って4人で縁側に腰を下ろした。総ちゃんが文句を言うと、お兄ちゃんは爛々と目を輝かせて言った。
「恩に報い、忠義を尽くすは武士の本懐。真選組の剣は幕府を護るためにある」
お兄ちゃんが言うとなぜか重みを感じる。それからお兄ちゃんはガマガエルの元に走って去って、トシさんは「山崎ィィィ」と叫んで行った。結果的に私と総ちゃんだけが残された。
何かが光ったように感じた。その瞬間総ちゃんは私を庇うように後ろに追いやった。そして、お兄ちゃんが撃たれた。急いでお兄ちゃんの元に向かう、撃たれた左肩から血が出ている。トシさんは山崎、と暗に追跡を言い渡した。ガマガエルの言うことなんか、聞こえなくて私の変わりに総ちゃんが殺気立って剣を抜こうとした。それをトシさんが止めた。


(だけど、確かに私も戦慄が全身を走り抜けた)

(060814)