風が通り抜けたかと思うと、足下から吸い込まれるように落ちていった
一度体験したことでも前回は覚えていないから、実質初めてのようなものだ。
これが有利の言っていたスターツアーズかぁとぼんやり考えていた。
放り出されたのは冷たい石の上、つまり何処かの城なのだが、如何せんどこだかさっぱりだ。
血盟城に居たときさえ迷子の常習犯だったのだが、ここは血盟城とは違う。
似ているけど、何処か違うのだ。
キョロキョロと見渡せば奥に大きな庭がある。
真ん中に噴水があって、きれいな花が咲いている。赤、白、青、黄色、紫、そしてたくさんの緑。
「うわぁ…」
思わず声が漏れたのはそこが秘密の花園とか、アリスとかに出てきそうなくらい可愛い庭だったから。
これだけ広いと庭とは云わないのかもしれないけど。
カフェテラスのようにテーブルと椅子があって、読書には最適そうだ。
有利の野球のキャッボールには向かいないだろうけど
「あらぁーん、素敵なお客様ね!」
セクシーヴォイスが聞こえて来たかと思うと、眩い金髪が視界に入った。
セクシーだったのは声だけではないらしく凄まじいほどのボディーだ
…なんだか自分の胸を見てため息が出るのは仕方ないと思う
「あなたが様、よね?」
キラキラとした青い目を向けられる
顔が近いんですけど…!
「えっと、あの、ここは…?」
「ここはお城よ、お・し・ろ!」
というか、あなたは誰ですか…?という質問はあまりに不躾だと思い飲み込んだ。
「私はフォンシュピッツヴェーグ・ツェツィーリエ。あの子たちから聞いてないかしら?」
ごめんなさい、聞き取れませんでした
「あの子たち…?」
「そう。私の可愛いヴォルフやコンラートよ」
「…えっと、もしかしてツェリ様?」
「いやぁーん、私のことご存じなの?嬉しいわぁ!」
ムギュウという効果音でも着きそうな勢いで抱きしめられた…、苦しい、です…
「あなたが帰ってしまったと聞いてとても残念だったわ」
「あー、ごめんなさい」
「あら、どうして謝るの?」
「だって私、勝手に…」
「そんなに悲しそうな顔をなさらないで。可愛い顔が台無しだわ」
ツェリ様は私の手を握って私の瞳を覗き込むように腰を屈めた
「まずは着替えましょう。話はそれからよ」
ニッコリと笑顔を向けられて、私はこくんと頷いた。
通された部屋はとても広くて、目をぱちくりしている私をよそにツェリ様はブツブツ呟いている
「これも…、あぁ!こちらの方がお似合いに…!」
クローゼットを開けて自問自答している。
「やっぱり黒かしら?そうね、そうよね」
手にしたドレスを見て一安心した。
ツェリ様が来ているドレスよりもセクシーじゃないし、勝利が喜びそうなゴスロリでもなかったからだ。
「やっぱり!いやぁーん、食べちゃいたいくらい可愛いわっ!」
と、危ない発言をしつつまたもや抱きしめられた
胸元にはりぼんがあって、腰の部分はきゅうっとしまっている。
そしてヒールが見え隠れするくらいの長さがある。
デザインの所為か、ほっそり見える。
何よりも私好みのデザインでよかった、と安心した。
「さて、お茶でも煎れましょうか。」
カチャカチャと扱うその動作もとてもきれいだ。
「私、本当はウルリーケから聞いて知っているの。」
長い睫を伏せる
「でも血盟城は居心地が悪かったかしら?私の息子たちがなにか無礼なことでも?」
「違うんです。私が弱いから、居てもいいのかなって…」
「私は、彼らが願ったようにあなたに幸せになって欲しいわ」
煎れたての紅茶の香りが鼻を突く
どこか潤んでいる青い瞳を直視できない
「今日はゆっくりおやすみになって、ね?」
母親を連想させる温かさに、思わず涙が出そうになった。