いろんなことを一気に聞いて、頭の中はパンク寸前だった。

 両親は不仲が原因で離婚、父親に引き取られたけど忙しくて家にいない日々が続いた

 一人で食べる食事は味気なくて、美子さんはよく夕食に誘ってくれた

 温かい家庭を知らなかった私はその好意がとてもうれしかった反面、辛さを倍増させた

 小学校、中学校、高校とエスカレーター式の女子校に通った私は男に免疫なんてなかった

 私の身近にいる異性と言えば、父と勝利と有利、そして勝馬おじさんくらいで


 中学2年の、夏が始まる少し前の季節に私と彼は出会った

 知らない太い手がスカートの上からお尻を触っていて、声なんて出せずに顔面蒼白だった

 怖くてぎゅうと鞄を握りしめていた

 漫画にでも出てくるように彼はその痴漢を捕まえて、思わずときめいてしまった

 名前なんて知らないし、教えてもない

 あれから出逢うこともなくて、しだいに記憶も曖昧になってくる

 彼が来ていた制服すら覚えていない自分に自己嫌悪する日々も少なからずあった

 初恋、だった。

 再び出逢ったのはあれから2年後、つまり高校1年の春だ。

 あれから恋に落ちた。

 幸せとはこういうものを言うんだと、初めて知った。

 手を繋げば心臓は聞こえるんじゃないかというくらいに音をたてて

 顔を近づければ真っ赤に熟した林檎のように染まって

 あの指輪を貰ったのは、私の誕生日。

 彼が飛行機の事故で死んでしまう3週間前だ


 アンティークのような年代を感じられる指輪を私はとても気に入っていた

 彼はその指輪を右手の薬指に填めてくれた

 緩くもなくピッタリと指輪は私の指に収まった

 巡り巡って私の元に返ってきた指輪、なんて愛しいんだろう




 彼の死を知ったのは、ニュースでだった

 飛行機が墜落し、生存の可能性は皆無、乗客リストの中に彼の名前を見つけた

 夢を見つけに行く途中の出来事だった





 季節は巡っても、何度涙を流しても気持ちが晴れることは無かった



 眞魔国に行っていつの間にか吹っ切れたんだと思う

 彼のことを愛したことを誇りに生きていこうと思った



 私は、指輪に優しく唇を落として、呟いた


 「もう一度あの世界に帰らせて」