東京は広い。

 こんなに広いんだから幾ら何でも見つけられないと思う。

 今まで住んでいたマンションを引き払って、そこから少し4駅程離れたところにまたマンションを借りた。

 あの人が眠っている景色が綺麗な高台には少し遠くなったけれど、しょうがない。

 美子さんには「有利には言わないで」と言ったから心配はない。

 勝利は、心配して大学の帰りとかに寄ったりする。それでもどうして、なんて聞かない。

 何故、有利には言わないのか。どうして引っ越したのか。

 聞きたいことは山のようにあるはずなのに、彼は何も言わない。



 でも、引っ越してちょっと学校に行くのが遠くなった。

 私の学校は都内でもちょっと有名なエリート校で、私は女子校が良かったけど、生憎そこは共学だ。

 着慣れた制服を着て、電車に乗った。

 学校が終わって帰るとき、味気ない一日だと感じた。

 教科書を鞄に詰め込んで、教室を出た。

 部活の声が響くグラウンドを横切って、駅がある方へ足を進める。

 「何してんだよ」

 不機嫌そうな声に反射的に振り返ってしまった。

 そこには眉間に皺を寄せた可愛い従弟の姿が。

 「どうしたの?」

 その問いにますます不機嫌そうになった。

 「どうしたのじゃねぇよ!なんで急に、居なくなったんだ!」

 「急にいなくなったことには謝る、ごめんね」

 「俺はそんなことが聞きたいんじゃない!」

 帰りがけの、同じ制服を着た学生がこっちをちらちら見ながら帰っていく。

 カップルのケンカにも見えたのだろうか。

 「有利、ごめん。でもね私は、あの世界に居るべき人じゃないんだよ」

 「そんなこと、」

 「そんなことあるでしょ?」

 有利がぐっと拳を握っているのが見えた。

 「今度有利が行ったときにみんなに謝っていて、迷惑かけてごめんなさいって」

 「それはが言うべきだろ」

 「私はもうあの世界には行けないの」

 「どうしてだよ」

 「ウルリーケさんがそう言ったの」

 「でもっ!」

 「ごめん、有利」

 有利の横を通り抜けた。

 鞄を持っている手が震えたけど、有利には見えなかったと思いたい。

 住宅地の一角にある子供が溢れる公園のベンチに座って、呼吸を整えた。

 「先輩も、素直じゃないね」

 今度は知らない声が降りかかる。

 顔を上げるとやっぱり知らない人が立っていて、私は思わず身構えた。

 「…誰?」

 「本当に覚えてないんだね、僕のことも」

 逆光で眩しくて、彼の表情がよく分からないけどなんだか苦しかった

 「隣、いい?」

 「どうぞ…」

 彼は隣に座った。隣の高校の制服だから頭がいいと思う。

 「君が眞魔国に戻ったのは知っていたけど、覚えていないどころか、思い出してもないなんてね」

 「…あなた誰なの?」

 「僕?僕は村田健。渋谷とは中学が一緒で今は君の学校の隣に通ってるんだけど」

 「そういうことが聞きたいんじゃない。あなたはどうして知ってるの?…眞魔国のこと」

 「どうしてって言われても、ねぇ」

 「え?」

 「君とは昔会ってるからね」

 「…私と?」

 「君にとっては前世のことなのに。」

 「待って。よく分からない… 前世?」

 「そうだよ、僕は何回も転生しているからね」

 「…私は?」

 「君は、の魂を持っているんだよ」




 その言葉を聞いた瞬間、ふわっと風が通り抜けたような感覚に陥った。