ちりん、ちりんとアントワネットが動くたびに彼女の首に付いた鈴が綺麗な音をたてる。
白くて柔らかいその耳元を撫でてやると気持ちよさそうに目を細める。
足下でじっとしていた彼女を抱き上げ膝の上に降ろす
心地よい体温が伝わったのか、体を丸めて目を閉じる。
眠りについていくアントワネットを見て、決意を固めた。
私は聞いてしまった。聞いてはいけないことを。
『彼女が何者か分からないのにこれ以上城に置くのは、私は賛成しかねます』
『いくら陛下の従姉だと言っても…』
『彼女は…、ウルリーケは何か言っていますか?これも眞王の導きなのでしょうか…』
足がすくんで動けなかった。
開きかけた口を閉じて、思いっきり走った。
足が思うように動かなくて縺れて転けそうになりながらなんとか自分に与えられた部屋に。
ベッドに沈んで、溢れるくらいに涙を流して、心配して擦り寄ってきたアントワネットが涙を舐めた
結局、私の居場所はここじゃない。どこにもないんだ、私が居るべき場所は。
泣き疲れて寝ていたのか、目が覚めたら日は沈んでいた。
私が部屋から出てこないと心配したメイドさんが、食事を部屋に持ってきてくれた。
昨日まではみんなと笑いながら食べていた食事を。それを見てさらに涙がこみ上げてきた。
そうしてやっと落ち着いた私は、決めたんだ。
地球に、帰ろう。
もともとこの世界は私が来るべきじゃなかった。なのに帰れと言われないから長居して、それが間違いで。
ウルリーケさんの所に行けば、帰れるはず。
歩いていくと時間がかかるかも知れないけど、今からここを出れば夜明けまでには着くだろう。
そしたらきっと誰も私がここを出たなんて気が付かないはず。
アントワネットは連れて行きたいけど、この子の鳴き声を聞いた人がびっくりしちゃうから連れていけない。
手紙を書いた。有利しか読めないように、日本語で。
すやすやと眠るアントワネットを私のベッドに眠らせて、手紙を机の上にのせて、城を抜け出した。
街灯も無いから当たり前だけど、辺りは真っ暗で月明かりだけが道しるべ。
だけど、それでも走った。足が痛いし、呼吸も乱れているけど、ここで止まっちゃいけないんだ。
やっとの思い出着いたそこは、すでにウルリーケさんが居た。
「お待ちしていましたよ、様」
「…あたなが、ウルリーケさん?」
「はい、地球にお帰りになるのですね」
こくん、と頷く。
「もうこちらには来れないかもしれません」
「構いません、そもそも私が来てしまったのは間違いなんです」
「…それでは、こちらに」
気が付くと、街を見下ろしている高台にいた、傘は足下に転がっていて
戻って来た
ここにも私の居場所なんてないけど、それでもあちらよりはいい。
黙って出ていったことに罪悪感を感じたけど、もう戻れないからしょうがない
そしてあの人のお墓に花を活けて、祈った。
祈られずにはいられなかった。ただただ、ずっと無心のままそこで祈り続けた。
ここに来た朝とは違う気持ちのまま、私は家に帰った。
「ただいま」
そういっても返事は帰ってこないけど。
ちりんちりんと、鈴が鳴っているような気がする。
アントワネットはどうしているかな、ごめんね。
謝ることと逃げることしか出来ない弱い私を許して。
有利はきっと、地球に戻ってきたら真っ先にここに来るだろう。
その前に、去ろう。有利の前からも。
少ない荷物を纏めて、部屋を後にした。
もう、過去には戻らない。これから私は私の時間を生きていく。