「めぇ〜」

 羊?山羊?と辺りを見渡すけれど、そこにいるのは白い小さな猫だけで。

 この可愛い猫が「めぇ〜」なんて、鳴いてるところは見たくないかも。

 猫は昔から「にゃあ」って決まってるの。

 その猫を見ていると猫は首を傾げて、上目遣いにこっちを見ている。

 …か、可愛い。

 「おいで」

 そう言うと、猫は私の手に擦り寄ってきて指を舐める。

 抱き上げると体温が伝わってきて、頬が緩む。

 そして、その猫は悠々と言ってのけたのだ。

 「めぇ〜」

 思わず固まる私なんてお構いなしに再びめぇ〜と鳴く。

 硬直が溶けた私は執務室に駆け込んだ。



 「有利」

 少し上擦った声で助けを呼ぶと有利は目を見開いて

 「おぉ!猫じゃん。」

 と言った。

 いやいや、私が言いたいのはそう言うことではなくて

 「有利、あのね、この猫…」

 言葉が上手くまとまらない

 私が焦っているのとは裏腹に猫は欠伸をしたり、腕の中で丸まったり

 「ね、猫ってめぇ〜って鳴く?」

 有利は納得したように私を見た

 同じ執務室にいるヴォルフは怪訝そうだし、コンラッドは薄笑い

 そして有利は私にこう告げた

 「こっちの猫はめぇ〜って鳴くんだよ」

 再び硬直して項垂れる私に、有利は私の肩に手をのせて「分かるよ、その気持ち」と言ってくれた。

 「日本ではにゃーでしたね」

 とコンラッドが言うとヴォルフは

 「猫はめぇ〜に決まっているだろ」

 と言った。

 「で、その猫どうした?」

 有利に聞かれ事の詳細を有利に言った。

 めぇ〜という声が聞こえてテラスを見れば白い猫。

 その猫を抱き上げると猫は鳴いた、めぇ〜と。

 驚いて執務室に駆け込んだことを。



 ソファに座って猫と遊んでいるとギュンターさんには刺激が強かったらしく使い物になっていない。

 使い物という表現はおかしいかもしれないけど。

 猫はヴォルフに懐いていて、今はヴォルフとじゃれている。

 有利は仕事をしていて、コンラッドはどこかに行っちゃったから、私はソファに猫を挟んでヴォルフと座っている。

 「この猫の名前は何と言うんだ?」

 「あ、まだ決めてない」

 そう言えば猫ちゃん、と呼んでいたことに気付いた。

 「何がいいかな」

 「の猫だ。お前が決めた方がいいだろ」

 「うーん」

 猫、猫、猫…

 「たま…?」

 そう言った瞬間、有利が振り向いて

 「安易すぎるだろ」

 と呆れられた。

 「じゃあ、しろ?」

 有利は散々ため息を吐いて

 「ってネーミングセンスないんだな」

 としみじみ呟いた

 失礼なやつめ。

 「あぁ!」

 ポン、と手を鳴らして

 「マリーちゃん!」

 と言ったらまた有利が「パクリだろ」と突っ込んだ。

 「アントワネット…?」

 「いいんじゃないか?」

 ヴォルフがそう言ってくれたからアントワネットに決定

 「アントワネットー!」

 猫じゃらしと遊んでいたアントワネットを抱き上げた。

 私の頬をぺろぺろと舐める。かわいいなぁ…

 有利は既に仕事が手につかないらしく、ソファに座った。

 ちなみにギュンターさんは話にも入れない状態だ。


 ノックと共に現れたのは姿が見えなかったコンラッドで甘いお菓子と紅茶を持ってきてくれた。

 あと、アントワネットのミルクも。

 お菓子と紅茶を飲みながら、アントワネットにミルクをあげた。

 お腹が空いていたのか一生懸命にミルクを飲んでいる。

 「名前は決めたんですか」

 「うん、アントワネットって言うの」

 「…マリー・アントワネット、ですか?」

 「コンラッド物知りだね」

 「ベルバラの影響だろ、は」

 有利が言った瞬間、言葉に詰まる。

 「僕の知らない話をするな!!!」

 ヴォルフがいきなり大きな声を出すから、アントワネットは私の腕の中に収まりヴォルフを威嚇している。

 その光景に苦笑しながら、よしよしとアントワネットの頭を撫でた。

 「懐いてますね」

 次第に威嚇を解くアントワネットを見ながらコンラッドがしみじみ言った

 アントワネットの手を掴んでヴォルフに猫パンチをしてみる。

 威嚇されたばっかりだからヴォルフは黙って猫パンチを受けている。

 …おもしろい。



 たまには、こんな日もあっていいんじゃない?