チェーンの通ったリングが歩くたびに揺れる。

 あまり見られたくないし、余計な詮索をされるのがいやだから長めのチェーンで服に隠れるようにしている。

 それでも、首から何かをつけていることは解ってしまう。

 首筋にひんやりとした感覚がいつの間にか体温と馴染んで温かくなる。

 それはまるで、あの人がいなくなってもまた、誰かを愛してしまう私のようで

 あの人の温かさと、温もりと、優しさが溶けているようなリングなのに

 どこか、私を責めているように感じてしまう。



 何かに没頭するように、書斎に閉じこもった。

 最初は地球で言うグリム童話のようなものから読み始めて、そしてこの国の歴史の本へ。

 歴史は好きだ。

 誰が、どう生きて、誰を愛して、何を信じて生き抜いたのだと言うことが、解るから。

 例えそれが憶測でも推測でもその人の信念だけは間違いない。

 この国のことを思って散って逝った英雄達の言葉を、知っておきたい。

 有利の役にも立つと思う、それはきっと私の自己満足だけど、剣なんて、私には出来ないから

 せめて、知識だけでも少しくらい役に立ちたい。

 「勉強家ですね」

 紅茶の香りと共に現れた彼はそう言った。

 「興味深い本が沢山あるから、」

 「それはよかった。でも、ユーリが寂しそうですよ」 

 「有利は仕事?」

 「えぇ、ギュンターと。ヴォルフも同じ部屋には居ますが」 

 「そっか」

 「休憩でもしましょう。今から執務室に行くところなんです」

 彼と共に陽の余り当たらない少し薄暗い部屋から眩しい廊下へ。

 一瞬、目眩がして目を細めて手を額に当てた。

 「大丈夫ですか?」

 そんな些細なことにも気付いてくれる。

 私は、大丈夫と言ってコンラッドと連れだって執務室へと向かった。

 突き当たりの大きなドアを開けるとそこにはぐったりした有利の姿。

 現れた私たちを見て、大げさすぎるほど目を輝かせた。

 …そんなに、嫌だったのかな

 「コンラッドは気が利くなぁ」

 有利がそう言うと、ギュンターさんは部屋の隅っこでいじける。

 それを宥めようと私が行こうとすると、コンラッドに止められた。

 「このほうが静かでいいですよ」

 それは納得だけど、それでいいのか?





 「いつもそれをつけているな」

 ヴォルフの何気ない言葉に、何故か部屋に沈黙が訪れた。

 彼は対してそれに興味は無いらしく、静かな部屋の中で彼の声だけが響く。

 「これ?」

 リングではなく、チェーンを指して言った。

 彼はこくん、と頷いた。

 「お守りなの」

 「お守り…?」

 彼は少し眉間に皺を寄せて反芻するかのように繰り返した。

 「大切な人から貰ったのよ」

 きっと、みんな気になっていたんだ。

 この世界に来てからずっとつけている、これの意味を。

 別に対した意味ではないけれど、でも、つけていないと落ち着かない。

 その答えに満足したわけでもないけれど、これ以上聞くのは不躾だと思ったのかも知れない。

 彼は有利に会話の矛先を変えた。




 長居をするのは、どうかと思ったけど、助けを呼ぶような有利の目に勝てず、

 午後はそのまま執務室で過ごした。

 ギュンターさんは有利の隣に居ることが嬉しいのか、ずっと喋りっぱなしだ。

 それはもう、呼吸する暇もないのではないか、と言うほどに。






 「やっぱり、みんな気になってたのかな」

 独り言のつもりで呟いたら、隣にいたコンラッドには聞こえていたらしく

 「毎日着けてますからね」

 でも、と彼は続けて言った

 「誰にだって触れられたくないことがありますから」

 そう言った彼の横顔はなんだか寂しそうで、悲しそうで、沈む夕日と混じって

 さらに、切なさそうだった。
  








 彼と共にいれば幸せで、それだけが全てだったのに。