「誰にも触れられたくないことがある」

 そう言った彼にも、触れられたくないことがあるんだろうか。

 こっち、言わずもがな眞魔国だが、に来てからは自問自答していることが多い。

 気を遣っている、と言われれば遣っているが、それを悟られない様にするのは思いのほか、気疲れする。

 元々サービス業に問われるようなスマイルゼロ円は向いていない。

 なんだが、ため息ばかり吐いている自分は幸せがどんどん遠のいていってるのだろうか

 そう考えるだけでも、またため息を吐いて、幸せが逃げていく。

 私にとっての幸せというのは、なんだが分からないけれど。

 「

 静かに、呼ぶ声の主を捜すとひょっこり有利が出てきた。

 口元に人差し指を置いて、静かに、と言うことを暗に示している。

 「何してるの?」

 苦笑混じりに言えば、彼は軽々と柵を跳び越え、バルコニーに侵入してきた。

 「ギュンターから逃げて来たんだよ」

 「そういうことだと思った きっとすっごい探してるよ」

 「だって、さ」

 言葉をそこで切って、有利は言いにくそうに言いだした

 「、最近元気ねぇじゃん?それってやっぱこっち来たから?」

 「元気、ないかなぁ」

 「いつものらしくないけど」

 年下のくせにこういうところは目敏い。

 「まぁ、慣れないところだしね」

 「そうかぁ?」

 「此処は好きだよ、みんないい人ばっかりだし、」

 「いい人っちゃあ、いい人なんだけど」

 「それに有利がいるし、」

 私の答えを聞いているのか、いないのか、有利はブツブツ一人言を呟いて

 「あ!って街行ったことないよな」

 「街?…城の外に出たことすら無いんですけど」

 有利は名案とばかりに目を輝かせている。

 「街行こうぜ!息抜きにもなるし」

 「でも、今日は無理じゃない?有利も仕事、残ってるでしょう?」

 「あー…、明日は?」

 「私は大丈夫だけど」

 「よし!じゃあ、決まり!」

 有利が思いのほか大きな声を出して、駆けつけたギュンターさんに泣き着かれながら仕事に戻って行ったのは

 言うまでもない。




 漆黒、という言葉がピッタリ当てはまるほど私の髪はそこまで黒くない。

 太陽の光に当たったら少しくらい茶色に見えるし、目の色も黒いのかな、茶色いのかな、程度だ。

 それでも、この国では黒い髪と目が珍しく、染めると髪が痛んで嫌だから金髪に近い茶髪のカツラと

 目にもカラコンを入れて隠した。

 部屋にやって来た有利も髪の色と目の色が変わっていて、なんだか新鮮で面白かった。

 "お忍び"という、あんまり聞かない言葉にわくわくしていたけど、メンバーがメンバーなだけに、

 目立っている気がしてならない。

 有利が浮気しないように、という名目でヴォルフがいるし、コンラッドは仕方ないと思う。

 だって、有利の護衛だし。

 でも、この四人だとなんつーか、微妙…、だと思うは私だけじゃないみたい。

 「ヴォルフ、なんで来るんだよ」

 呆れたように有利が言うとヴォルフは顔を真っ赤にさせて

 「婚約者のぼくが着いていくのは当たり前だろう!」

 と憤慨した。





 城下町は人で溢れていた。

 見慣れないその光景にきょろきょろと、忙しなく目は動く。

 「何か見たいものがありますか?」

 有利とヴォルフがセットになって、必然的に私はコンラッドといることになる。

 まぁ、目の届く範囲には彼らも居るのだが。

 「あれは、何?」

 何も知らない世界に来て、不思議なもので溢れていて、好奇心をそそられるのは当たり前。

 コンラッドに質問しながら街を歩き回った。

 夕方が近づくにつれ、久しぶりにいっぱい歩いたものだから足は棒のようになっている。

 「有利!今日はありがとう。すっごく楽しかったよ」

 有利の耳元でそう言ったらそれを目撃したヴォルフに有利が、怒られた。

 なんだか、微笑ましいというか、心が弾む。 

 「コンラッドもヴォルフも今日はありがとう」

 腕を取って城へ戻った。










 部屋の中央のテーブルには買った貰ったガラス細工とチェーンの通ったリングがちょこん、とのっている。