朝起きて、窓を見るといつも差し込んでいるはずの光がない。

 カーテンを開けると外は思った通りに雨が降っていた。カレンダーを見やれば黒塗りの日。

 あぁ、そうか。どうしてこんなにも心が落ち込んでいるのか。その原因はすぐに分かった。

 今日はあの人が死んだ日なんだ。

 そして、あの人が死んだときと同じ天気だから、だからこんなにも気が乗らないんだ。

 今日はあの日と何もかもが似ている。 むしゃくしゃする


 家を出る支度をして、ミュールを引っ掛けて飛び出た。

 白いワンピースの上に黒いボレロを来て、首にはリングの通ったネックレス。

 道の途中で、花屋によって赤い花をあの人が好きだと言った花を包んでもらった。

 あの人が眠る石の階段を上ると、そこには小さな花が沢山咲いていて

 高台から見下ろす街並みはありふれた言葉だけど、綺麗だった。



 花を活けようと、水道を探すと少し遠いところにそれはあった。

 ひとまず、花を置いて私は水道まで歩いて行った。

 蛇口を一捻り、目眩がしたのか、目の前が真っ暗になった。

 真っ暗になって次に光が目に入ったとき、現状を把握するのに時間がかかった。

 目の前には久しぶりに見る、従弟の顔。

 心配そうに覗き込む、彼は私が目を開けたのを確認すると

 「大丈夫?」

 と言った。

 「私、どうしたんだっけ?」

 体を起こして、手を額に当てて先程までの自分の行動を思い出そうとする

 頭痛が酷くてあまり、考えたくない

 「倒れてたんだよ」

 「倒れてた?」

 「うん、そう。もしかして、水の近くにいたりした?」

 「いた、かも」

 やっぱり、と言うように項垂れた彼に私は困惑する

 「だよね… あの、さ、落ち着いて聞いて欲しいんだ」

 二つ年下のくせに諭すように目を伏せた

 でもその内容はとてもじゃないけど落ち着いて聞いてる場合じゃない言葉ばかり

 「眞魔国…?」

 「…あー、ていうか、世界地図にも載ってないんだけどさ」

 「だよね、そんな国記憶にないもん」

 「ていうか、異世界なんだ」

 「はぁ?」

 突然出てきた従弟の異世界宣言に開いた口も塞がらない

 「有利、もしかしてそんなに勝利のこと嫌いなの?」

 有利の額に手を置いて熱はないか確かめる。よし、平熱。

 「勝利のこと嫌いで妄想までしちゃうようになったのね…」

 ほろり、勝利がめっちゃブラコンなのは知ってるけど、そこまで…

 有利が不憫で涙が出てきた。気付いてあげられなくてごめんね。

 「いやいやいや!ー?戻ってきてー」

 一人で納得している私に有利が問いかける

 「有利、勝利から逃げたいならいつでもうちに来ていいよ?」

 「あ、うん。それは助かる…って、違うから!」

 やだ、有利ったらいつのまにそんなノリツッコミ出来るようになったの?

 「この部屋、見たこと無いだろ?」

 「うん。ラブホ?」

 「違うから…、窓の外、見てみ」

 明らかに、日本じゃないだろー的な景色。

 「わぁ、すごい。ここどこかしらぁ?」

 「、すっげぇ棒読みだから」

 だって、私にどんなリアクションを求めているの?

 「…有利」

 泣きそうな顔で名前を呼ぶと、有利は私の頭をぽんぽんと撫でた 年下のくせに




 勢いよく扉が開いた

 私と有利は窓の近くに立っていて、涙を浮かべてる私の頭に有利の手が乗っている状態

 別に怪しい構図じゃないと思う。 明らかになだめてる感じで

 だけど、そこに入ってきた人は怒りを露わにした

 「ユーリ!この尻軽!ぼくという者がありながらお前ってやつは!!」

 有利を殴りそうな勢いだ

 状況に着いていけない私は慌てる有利を見ているしかできない。

 「こらこら、ヴォルフ、彼女が驚いている」

 金髪のすっごいかわいい男の子(だと思う)のあとに入ってきた優しそうな青年が金髪の少年を止める

 私は思わず、有利の袖をぐいっと引っ張った

 「ねぇ、私、益々わからない」

 頭の中は状況を分析しようとものすごい早さで回転している

 「あー…、」

 有利もこの状況を説明出来ないのか、する気がないのか生返事しか返さない









 とりあえず説明を、と言うことでなぜかこの四人でテーブルを囲む羽目になった。

 …凄く居心地が悪い。



 「まぁ、要するに俺がこの国の魔王らしくって飛ばされて来ちゃったんだよなー」

 と暢気に有利は説明する

 「でも、外人さんが日本語を流暢に話してると違和感あるね」

 そう言った瞬間にみんなフリーズ。え?私変なこと言っちゃった…?

 「そういえば、。話せてる…」

 「そうですね…。俺もすっかり忘れてましたよ」

 きょとん、とする私に有利は茶髪のお兄さんとアイコンタクトして

 「ってもしかして、こっちの人…?」

 「可能性は無くはないですね」

 すいません、解らないです。

 「こっちは晴れてるんだねー」

 あ、そういえば日本は雨で今日は大切な日なんだ。

 なのになんで、こんなことに巻き込まれてるんだろう。結局お墓参りにも行けなかったじゃん。

 なんだか、憂鬱だ。

 「?」

 「あー、ごめん。現実逃避してた」




 有利は説明をし出した。足りない部分は茶髪のお兄さんが補足して。

 金髪の少年は不機嫌そうに紅茶を啜ってる。

 要するに、私はとんでもないところに来ちゃったわけだ。

 「でも、有利が居てくれてよかった 私一人じゃ多分現実逃避しか出来ないし…」
 
 有利はとなりで、こくこく頷く。

 「そういえば、ギュンターいないじゃん?」

 珍しい、と言いたげな有利の声色。

 「もうすぐしたら来ると思いますよ」

 「陛下ー!!!!」

 「ほら」

 次に入ってきたのはまたまた美人さん。魔族というものはみんな綺麗なんですか?

 「はぅ!?双黒…!!!」

 「ギュンター、落ち着いて!俺の従姉なんだ」

 「へ、陛下の従姉… お美しい…」

 そしてこの国は美意識も少し、というか、かなりずれてる。

 「えっと、初めまして。渋谷です。」

 そう言った瞬間にはギュンターさんは倒れ込んだ。赤い液体と共に。

 「、見ちゃ駄目だ!あっち向いてて、あっち!」

 有利が指した方向にくるりと、大人しく体を回転させた

 後ろから様々な音が聞こえてくる くそぉ、気になるよ…







 ギュンターさんのことは気にしなくていいと言われ(気になるけど)

 有利は知り合いがこっちの世界に来てくれて嬉しいらしい。

 なので、しばらくお世話になることになった。

 私はなぜか、この世界の言葉も文字も読めるし、書ける。(ギュンターさんは泣きながら喜んでいた)

 午前中は有利と勉強、そして午後はお城の中を有利に案内してもらったりして過ごした。

 コンラッドも、ヴォルフとも仲良しになれて満足。(こういうのを両手に華って言うんだ)





 「ねぇねぇ、コンラッド、書斎とかってあるの?」

 「書斎、ですか?」

 「うん、暇だし、勉強にもなるかなぁ、って」

 「勉強熱心ですね」

 「本読むのは好きだしね、それに、有利の役に立ちたいし」

 コンラッドはにっこりと微笑んだ。

 最初こそ、美形集団に驚いたけど今では慣れたというか、心臓も落ち着いてきた。

 「本は山のようにありますよ、どんな内容がいいですか?」

 「うーん、歴史ものとか?…あ!物語でもいいなぁ…」

 「たくさんありますし、時間を掛けて読むのもいいですね」

 「コンラッドは全部読んだことある?」

 「まさか!ギュンターあたりは全部読んでるかも知れませんよ」

 「確かに、でも、なぁ」

 ギュンターさんは私を見るたびに出血多量になるんじゃない?ってくらい赤いものを吹き出す

 私から話しだしたらどうなるか、解ったもんじゃない

 「…ああ、やめた方がいいですね」

 「そうだよね」

 長い廊下を二人で歩いていると後方から暢気な声が聞こえてきた

 「あ、コンラッド!フットワーク行こうぜ」

 振り返るとそこには従弟の姿。

 「有利、体力余りすぎ」

 「が体力なさ過ぎるんだって」

 既に有利は手にグローブを二つ、持っている。

 「!コンラッド借りていくから!」

 「一人で戻れますか?」

 「うん。大丈夫」

 連れだって行く二人を見て自然に笑みが零れた。