「いい加減に諦めろよ」

 眉間に皺を寄せて、美人が怒ると迫力があると聞くけどまさにその通り。

 シリウスを美人と称するのは、彼の顔立ちがとても綺麗だから

 (でもシリウスを美人と言う人はあたしくらいしかいない)

 「諦めろって言われても、」

 歯切れ悪く負けずに言い返せば、彼の機嫌は急降下のようで見る見る顔に表れる

 そして普段よりも1オクターブくらい低いんじゃないのって言うような声で私に言った

 「お前が俺に勝てるわけねぇんだよ」

 その声にゾクリと背中に鳥肌が立って、思わず後退した

 一歩ずつ確実に近づいてくるシリウスがなんだか怖くて、知らない人みたいだった

 誰かに助けてもらおうと辺りを見渡すけれど、広い廊下に人の姿は見あたらない

 息を吸って大声で叫ぼうとすると、それを察知したのかシリウスは私の口を彼の手で覆った

 温かくて大きい手だった

 廊下にある柱に押しつけられて、右手は柱に手を付き、左手は未だに私の口を押さえている

 「逃げるのか?」

 真剣そうに、どこか切なそうに、そして彼は笑った

 私はなんとも言えない気持ちになって、自分のローブを強く握った

 頭と横に大きく動かすと彼は口を覆っていた手をどかしてくれたけど、変わりに柱に左手も付けた

 おかげで私は全く身動きすることが出来ない

 シリウスは柱に手を付いているから、距離が近い

 「だって…!」

 思わず、口走ったけど続きが出てこない

 口をパクパクとまるで魚のように動かすことしか出来なくて、目にはうっすらと涙が浮かぶ

 太陽はまだ高い位置にあるのに、私は背を向けていて柱の影がシリウスの顔にかかり影を作る

 それが彼の苛立ちを露わにしているようだった

 「弁解でもするのか?」

 「ご…、ごめんなさい…」

 迫力負けしてついに謝ってしまった

 その瞬間シリウスは薄く笑った

 私は知っているこの笑みは悪戯に成功したときの笑い方だ!

 「やっぱりお前だったのか」

 はい?っと首を傾げると彼は笑いながら言った

 「鎌を掛けただけなんだけど」

 や ら れ た !

 「ひどい!シリウス騙したのね!」

 「見物だったぜ、今の顔」

 ニヤリと笑いながら言う

 「シリウスの馬鹿犬」

 「犬は余計だって。しかも悪いのお前だろ」

 「私のどこが悪いって言うのよ」

 「俺のデザート喰っただろ」

 「あ、余ってると思ったんだもん…!」

 シリウスの胸板をポカポカ叩いていると、彼は私の手首を掴んで引っ張った

 手繰り寄せられるようにシリウスの腕の中に収まった私にシリウスは耳元で囁いた

 「俺のプリン喰った罪は重いぜ」


 私は思った。こいつは確信犯だ! 

 (今さら気付いたのか、馬鹿め)